恋するイフリート
リビングに降りると、真っ暗で
辺りは静まり返っていた。
この時間だからなのか、
それとも長旅の疲れからかは解らないが
皆もう眠りについているようだった。
葵はキッチンの明かりをつけ
コップに水を注ぐ。
注いだ水を飲もうとしたその時…
葵はある物がそこにある事に気づいた。
キッチンから漏れる明かりで
隣り続きのリビングにある『それ』が
ボンヤリとここからでも確認できる。
『…も…もしかして……』
はやる気持ちを抑えて
抜き足、差し足でそれに近づく……。
リビングのテーブルに置いてあったのは…そう……
イスラムの聖典『コーラン』っ!!
『な…なんでこれがここにっ!!』
興奮の余り行動がつい挙動不審になってしまうっ!
葵はキョロキョロと辺り見回した。
すると、まだそこらかしこに
アシュラフの荷物が山積みになっている。
『まだ、片付けきれてないんだ…』
ゴクリと生唾を飲み込んだ。
頭の中で、昼間のアシュラフの慌てようが
リピートされる。
……が……
【絶対に見てはならぬ】と言われれば
見たくなるのが人情というもの。
アシュラフもそんなに見せたくないのであれば
いの一番にこれを手元に置いとくべきだったのだ!
『そうだっ!!手元に置いとかなかったアシュラフが悪いんだっ!!
それに……見たことを黙っていれば……
……バレないよね……??』
見るか否か……。
結論に至るのは早かった。