恋するイフリート

「いや…あたしは別に何も…」


「嘘おっしゃい!あなたアシュラフのコーランを盗み見したんでしょう!?」


うぐ……

もう言い逃れは出来ない…。


「ご…ごめんなさい!つい出来心で…」


「あなたって娘はっ!!」



ひえっ!!殴られるっ!!

葵は固く目を瞑った!!


「おいっ!!女っ!!その娘は悪くないっ!!」


…えっ??

降りてくるはずの美里の鉄拳が降りて来ない?


意外や意外。

葵を庇ったのはイフリートだった。


「その娘はむしろ、良い仕事をした!

 なんせ俺を長い封印から解放してくれたのだからな!」


何故か得意気のイフリート。

そして、そのまま視線はアシュラフへ…。


「悪いのはこの男の方だっ!!

 俺をコーランなんぞに封印しやがって!!」


イフリートは今にもアシュラフに食いつきそうな勢いだ。


「アシュラフ、どうなの?」


美里が尋ねる。


アシュラフは美里の問いかけに少し困ったような顔をし

観念したのか、大きな溜息を一つついてから

ポツリポツリと話しだした。


「大変むかしのおはなしです。

 アシュラフのせんぞ、イスラムの聖職者でした…。

 砂漠にはとても悪いジンがいて、みんな大変困ってました…。」

 

何故か……


突然アシュラフの昔話が始まった…。


葵はもちろん、ぶっ飛んでいる美里ですら、その意図は掴めない。

その昔話と、このイフリートと名乗る男の謎、そしてコーランを開いてしまった事……


一体何の関係があるのか……。



アシュラフは険しい顔つきで話を続ける…。


「そこで、アシュラフのせんぞ、悪いジンこらしめるため、

 ある魔法をかけてそのコーランに封じ込めました。

 それが……」


アシュラフがイフリートを指差した。


「この、イフリートですっ!!」


……はい…??


アシュラフ何言っちゃってんの??


葵も美里も目が点になる。


そんな、なんともしれない異様な雰囲気の中で只一人、イフリートだけが

不敵な笑を浮かべていた…。

 

< 21 / 32 >

この作品をシェア

pagetop