恋するイフリート
「な…なぜだっ!!…魔力が…俺の魔力がぁぁぁっ!!!」
イフリートは、依然として、自分の両手を見つめている。
そんな彼に、別人のような顔付きのアシュラフが笑いかける。
「イフリート…。
お久しぶりですね」
その笑顔は、氷のように冷たい。
「………!?」
何かを察知したイフリートは
再び険しい顔付きでアシュラフを睨む。
「……カリフかっ!?」
「……!?」
聞き覚えの無い名に、美里と葵の視線もアシュラフに注がれる。
「…えぇ…。再びあなたとお会いできて
私はとても嬉しいですよ♡」
ーーカリフ?
何なんだそれは…。
確かに……
その冷たい微笑みはアシュラフとは全くの別人のようだ…。
葵も美里も黙って二人の話に耳を傾ける。
「…お前…
死んだんじゃなかったのか…?」
そう尋ねるイフリートに笑顔で答えるアシュラフ…。
「えぇ、死にましたよ?
しかし、こういう事があるだろうと…
まじないをそのコーランにかけておいたのです」
「…チッ!!お前、一体俺に何をしたっ!?」
「初めまして。葵さん、美里さん」
怒声を上げるイフリートを全く無視して、
唐突に葵と美里に向き直り挨拶をしだすアシュラフ。
「あ…ぁ…どうも…」
この驚きの展開でも、取り乱す事なく
軽く会釈をし返事を返す親子…。
さすが、美里とその娘。
「すいませんねぇ…。
訳が解らないでしょうから…
私からご説明申しあげますね」
優しく二人に微笑みかけるアシュラフは
今までのアシュラフとは違い、
何処か落ち着いた大人の雰囲気を漂わせ
とても色っぽく映る。
「…私は…このアシュラフの先祖であり
イスラムの聖職者『カリフ』。
そこに居るイフリートを
このコーランに封じ込めた張本人です」
突然のすっとんだ挨拶に思わず葵の口から
率直な質問が飛び出す。
「えっ!?
それじゃぁ、アシュラフはっ!?」
この質問の内容からして、
葵も十分ぶっ飛んでいる事が伺える…。
心の何処かで、このブッ飛んだ茶番劇を
受け入れているとしか思えない質問だからだ。