恋するイフリート
コーランから立ち昇る蒼白い光が、イフリートを包み込みだす。
「……ばかっ!!マジで、やめろっ!!カリフッ!!」
喚き散らすイフリートに氷の微笑を突き返すカリフ。
「…それが、人にお願いする時の態度ですかね?
…あなたは、本当に何も解ってない…」
大きく頭を左右に振りながらカリフは続けた。
「私は今から、このコーランにあなたを封じ込めます。
閉ざされたその世界は永遠に続くかもしれません」
イフリートは「ギョッ!!」とした。
何て恐ろしい事を、笑顔で言う男だろう……。
しかも、封じる相手に宣言して、それを行おうとするなんて…
自分以上のドSは、世界広しとはいえ、この男以外思い当たらない。
「…しかし、私も鬼ではありません。
あなたに、チャンスを残しましょう」
蒼白い光に包まれたイフリートは
強力な神の力でコーランへと引き寄せられ始めていた。
「カ…カリフ…お願いだ…辞めてくれぇ…」
……カリフは冷たく笑う。
「もう、そんな見え透いた泣き落としなんて、通用しませんよ…」
「あなたにマジナイをかけます。
この封印を解いた人間を幸せにしなさい。
その人間が本当の意味で幸せを感じた時、
あなたは再び自由を手に入れる事ができるのです…」
イフリートの身体が稲妻を伴った激しい風と共に、
カリフの手元のコーランへと勢いよく吸い込まれていく……。
「何がマジナイだっ!?
そりゃ、てめぇの、呪いだろうがよっ!!
覚えてろよっ!!カリフっ!!
そんな呪い、速攻で解いて、てめぇの寝首をかいてやるからなっ!!」
「えぇ。楽しみに待っていますね♡」
喚き散らすイフリートが最後に見たのは
変わらず微笑む、カリフの姿だった。
「ぜっっってぇー、
ぶっ飛ばしてやるぅぅーーーーーーーーー…………………………。。。。」
激しい稲光を伴う暗雲も、
イフリートのガキ臭い最後の雄叫びも、
全てコーランに飲み込まれ、後に残ったのは、
静寂に佇むカリフの姿だけだった。
「イフリート……。私はあなたを信じていますよ………。
あなたにアッラーの導きがあらん事を………」
カリフは静かにコーランを閉じ、
主を無くし、もぬけの殻となった城を後にした…………。