恋するイフリート
葵の章



ーーーーそしてーーーー




ーーー月日は幾つも巡りーーー






ーーーーここは、アラブから遠く離れた現代日本ーーー。












「カチカチカチっ!」







「…ぐふっ……ぐふふふふっ!」







食いカスや漫画本が淫らに積み重なった暗黒のワンルームに、

マウスのクリック音と、不気味な笑い声が木霊している……。








「…うふぅっ♡この、どSな海賊王めっ♡」





気持ちの悪い笑い声をあげ、PCモニターを恍惚の表情で眺めているのは、


やっと出て来た、本編の主人公『山中 葵(やまなか あおい)』。


現在18歳で、この春一人暮らしを始めた、ピチピチの女子大生だ。


最近の彼女は、この『恋する海賊王♡』の『イケメン海賊』落とす為、

日夜並々ならぬ努力をしている。

自他共に認める『ダメ人間』だ。


到底少女漫画や、それ系のラノベでは主人公として取り扱われない

可哀想な「オタク、キモ系女子」の代表格だ。

いや…もしかすると、それより質が悪いかもしれない…。


それでも!!


何度も言うがこのだらしない部屋の住人が本編の主人公なのである。

全く、趣味が、妄想とゴロ寝なんて、

若い時を無駄に消費して生きているとしか思えないが

本人はそれについてさほど気にしてはいない。




『恋する海賊王♡』も佳境に入り丁度区切りの良い所で、

何気なくPCデスクの脇にある時計に目をやると、

すでに真夜中の3時を指していた。



ヤバイ……。


かれこれ、飲まず食わずで9時間程ぶっ通しで、

恋愛ゲームにのめり込んでいた…。


母、美里の鬼のような面相が一瞬脳裏をよぎる。




…が、



「ぐふぅっ♡」



受験戦争を勝ち抜き

一人暮らしという栄冠を手にしていた葵は、

ニンマリと高らかに笑い、

手にある缶ビールを勢いよく開けた。



「ここは、あたしの聖域だぁぁっ!」



喜びの缶ビールをグビリと勢いよく飲み干した時、





……不穏な音楽が狭いワンルームに鳴り響いた……。






「……ちゃ〜んちゃ〜らら〜ちゃ〜らら〜…………」





葵の携帯電話が唐突にダースベータのテーマを奏でだしたのだ…。


葵の表情からみるみる笑顔が消えていく……。


誰からの着信なのか、葵にはもう解っていた。


それが解るように、ある特定の人物からの着信をダースベーターのテーマにしたのは

他の誰でもない、葵本人だ……。


しばらく、不愉快な音楽を鳴らしながら、

ブブブっと震える携帯電話を黙って見つめていたが、

一向に諦めてくれる気配は感じられないので、

仕方なく携帯電話を手にとった。








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