恋するイフリート
「……………はい………………」
葵は先程までのテンションとは打って変わって、控えめな声で電話に出た。
「やぁ〜ん♡葵ちゃぁ〜ん、なかなか出てくれないから、無視されてるのかと思っちゃったぁ〜♡」
葵とは対象的な、高音域なテンション高めの声に思わず耳を塞ぎたくなる。
無視してたんだよっ!!解れよっ!?
と、密かに思いつつも無表情に会話を続けた。
「…こんな夜中に何の用?」
「えぇ〜!?今、日本は夜中なのぉ〜!?」
……チッ!解ってる癖に、うぜぇっ!!
この女は毎回こうなのだっ!!
「ねぇ〜?葵ちゃん、今、ママは何処にいると思うぅ〜??」
またか……。
認めたくはないが、これが、葵の母、美里だ。
美里は、少し普通と違う……、いや、少し所ではない……。
『だ・い・ぶ』人とは違う。
まだ美里が若く美しい時、将来有望そうな青年と出会った。
それは後に『親父』という、世界で最も便利なATMと化し、
世界各国を旅して回る事が趣味な美里を今でも影で支えている。
おそらく今回も、どこぞやの旅の空の下で、葵に連絡してきたのだろう。
「………どこにいるんでしょ〜ね〜」
ウザさ全開で答える葵をもろともせず、美里は嬉しそうに、それに答えた。
「答えは………エジプトでしたっ♡」
………やっぱり…。
こんな美里に18年も育てられたのだ。
もう、何を言われたって驚きはしない。
「で、そのエジプトからこんな時間に一体何の用よ…??」
「んもぅ〜、葵ちゃんてば、冷た〜い」
この真夜中に、ワザとらしく泣き真似を始める美里に、思わず溜息が漏れる。
葵は呆れながらも、少しばかり優しい声色に切り替え、改めて問い直した。
「何か用があるから連絡して来たんでしょ?」
「葵ちゃん、初めての一人暮らしだし、
ママがいないのを良いことに、
また、気持ち悪い趣味でもやってんのじゃないかと
心配になっちゃって…」
……人の趣味をどうどうと気持ち悪い呼ばわりするなんて、さすが美里だ。
「ちゃんとしてますー。心配しなくていいよ!」
お決まりの社交辞令バリに答えてやった。
「そんな事言っちゃって、
こんな夜中まで起きてるぐらいだから、
また恋愛ゲームでもやってたんじゃないのぉー??」
「!!…い、いや、今日は、大学の夏休みの課題やってたら、ちょっと遅くなっただけだよっ!」
美里の癖に、なかなか痛い所をついてくるじゃないかっ。