恋するイフリート
「へぇ…なんか、あやしぃなぁ…」
怪しがる美里の注意をそらそうと、葵は無理矢理会話を進めた。
「用事はそれだけなら、もう切るよっ!!」
「違うのよ、用事は別にあるの☆」
さっさと電話を切ってしまいたい葵に美里が食いつく。
「葵ちゃん、もぅ夏休みなんでしょ??もちろん、実家に帰ってくるのよね??」
「えっ……あっ………」
頭の壊れた美里の元へなど、露程にも帰る気などなかっただけに咄嗟の返答が出て来ない。
何か上手い言い訳はないものかと、
頭を巡らせてはみるものの
元々、そのような小細工を最も不得意とする葵の口から出てくるのは、
「あわ……あわ………」
という、なんとも情けないうめき声だけだ。
一方、美里はというと、葵が帰省する気が無いという事などお見通しのご様子で、
葵がうろたえているのをいいことに、強引に話しを押し進める。
「ママねぇ、今回は葵ちゃんに特別なお土産を用意してるのぉ♡
明後日には日本に帰る予定だから、ぜっっったいに、葵ちゃんも帰ってきてね♡」
「あ……わ……」
「お土産、楽しみにしててね♡」
「………あ…わ………」
「じゃ、明後日、お家で会いましょうね♡」
「………あ…………」
「……………プツっ…………つーつーつー…………」
「………………………」
携帯電話を握る手が震える…
さすが、何者にも束縛されない女、美里。
こうなったら、葵の意志なんて関係ない。
もし、これで、葵が帰らなかったら……………。
……………恐ろしすぎてその先を想像する事ができない………。
葵は、怒り震える拳を懸命に押さえつけながら、
帰省の荷造りをはじめたのだった…。