恋するイフリート
「4ヶ月ぶりかぁ~っ!」
駅から出てきた葵は
長時間の移動で凝り固まった身体を
大きな伸びをして、労った。
現在葵は大阪で一人暮らしをしている。
実家は九州の福岡県だ。
九州の窓口福岡県とは言っても、名ばかりで
大分県との県境に位置するこの町は
大自然に抱かれたのどかな田舎町といった所で、
ここに到着するまで新幹線と電車を乗り継ぎ6時間もかかる。
朝、8時に家を出て、
すでにもう昼2時を過ぎている有様だ。
ちなみに、最寄りの駅はもちろん無人駅。
駅前であるにもかかわらず、
まだ昼の2時過ぎだというのに、
人っ子一人いやしない……。
葵の地元とはそういった所なのだ。
そして、ここから車で30分程
山に向けて登った所に実家がある。
バスも一日3往復しか来ないこの町では
車は地元民の貴重な足であり、最低必需品だ。
そして、そういう所だから、駅までは、
葵の母、美里が車で迎えに来る手はずになっているのだが………
「ぷわ~ん、ぷわんっ!!」
誰もいないこじんまりとした駅に
派手なクラクションの音が鳴り響いた。
静寂を破る突然の電子音に驚いて
葵は音のする方へ顔をあげると……
遠くから、真っ赤なクラシックカーが、
「ぷわーんっ、ぷわんっ!!」
と、派手な音を鳴り響かせながら
こちらに近づいて来ているのが見えた。
「はぁ……」
それを見た葵は大きな溜息を吐いた…。
「……美里だ……」
誰も居ないとは言え、目をそらしたくなる…。
のどかな田舎の背景に全く似合わない
真っ赤なクラシックカーは
「ぷわーんっ、ぷわんっ!!」
と、ド派手な音を響かせながら
葵の目の前で急停止した。
…まるで、暴走族のようだ…。
これが実の母だとは思いたくないが、
それが葵の現実なのだ。
現実を受け入れたくなくて、
そっぽを向いて佇む葵を
あの、ハイテンションな甲高い声が襲う……。
「葵ちゃぁ~~ん、こっち、こっち♡」
そんなに主張しなくても、500メートル前から解っていた。
美里にこれ以上ここで騒がれたくない葵は、
目を合わさず素早くド派手な車に乗り込んだ。