恋するイフリート


「お帰り~、葵ちゃん♡疲れたでしょ??」


疲れている時に、余計疲れる甲高い声がわずらわしい。


「うん。疲れたから早くかえろ…」


目も合わさず、素っ気なく答える葵に、

美里はいつものように駄々をこねだした。


「えぇ~??葵ちゃん、つまんなぁい!

 久しぶりのママとの再開なんだよ?

 せめてママの目を見て言ってよぉ~~っ!!」



…………本当にうるさい女だ……。



しかし、ここで逆らうのは得策ではない……。


逆らうとただでさえウザイのに

余計ウザくなるからだ。


そうなると、もう手がつけられない。



葵は何とか引きつった笑いをつくり

美里に向き直った。





「…………っっっ!!??

 何っ!?その格好っ!?」




思わずすっとん狂な声を上げる葵。




視界に飛び込んだ物の凄まじさに

笑顔の仮面は剥がれ落ちてしまった。



「うふ♡似合うでしょ??」




何事もなかったかのように笑顔で答える美里……。




美里は、元々可愛らしい容貌をしている。

その証拠に、昔から友達にも

「葵ちゃんのママ、綺麗だね」

と言われてきた。


20歳で葵を生んだ美里は現在38歳なのだが、

その容貌と少女趣味から、

まだ20代後半には見えるし、

普通にしていれば、

「可愛い」の部類に入ると葵も思う。




そう……普通にしていれば……






葵の隣りで可愛らしく微笑む美里は

真っ白な民族衣装に身を包み、

頭からは、手の込んだ刺繍が施されたベールを被っている…。



「これ、ガラベーヤって言うエジプトの衣装なの。素敵でしょ?」



素敵も何も……


正直、見た目おばQのコスプレだ……



想像してみて欲しい……。


田舎町で、砂漠の民の衣装(おばQ)に身を包み、

真っ赤なクラシックカーを操る

若作りな女の姿を……。




それはもう、ホラーでしかない……。





……エジプトの風に当てられて購入して来た物だろう……。



美里らしいと言えばそれまでだが……


何も日本で、しかも、今着なくてもいいと思う……。



絶句状態の葵に美里は笑顔でこう言った。



「葵ちゃんにも素敵なお土産を用意してるからね♡」




この分じゃ、その土産とやらも期待できそうにない……。






それから家に着くまでの30分




陽気にはしゃぐ美里を他所に



葵は一言も口を開こうとはしなかった。







< 8 / 32 >

この作品をシェア

pagetop