恋するイフリート
「お帰り~、葵ちゃん♡疲れたでしょ??」
疲れている時に、余計疲れる甲高い声がわずらわしい。
「うん。疲れたから早くかえろ…」
目も合わさず、素っ気なく答える葵に、
美里はいつものように駄々をこねだした。
「えぇ~??葵ちゃん、つまんなぁい!
久しぶりのママとの再開なんだよ?
せめてママの目を見て言ってよぉ~~っ!!」
…………本当にうるさい女だ……。
しかし、ここで逆らうのは得策ではない……。
逆らうとただでさえウザイのに
余計ウザくなるからだ。
そうなると、もう手がつけられない。
葵は何とか引きつった笑いをつくり
美里に向き直った。
「…………っっっ!!??
何っ!?その格好っ!?」
思わずすっとん狂な声を上げる葵。
視界に飛び込んだ物の凄まじさに
笑顔の仮面は剥がれ落ちてしまった。
「うふ♡似合うでしょ??」
何事もなかったかのように笑顔で答える美里……。
美里は、元々可愛らしい容貌をしている。
その証拠に、昔から友達にも
「葵ちゃんのママ、綺麗だね」
と言われてきた。
20歳で葵を生んだ美里は現在38歳なのだが、
その容貌と少女趣味から、
まだ20代後半には見えるし、
普通にしていれば、
「可愛い」の部類に入ると葵も思う。
そう……普通にしていれば……
葵の隣りで可愛らしく微笑む美里は
真っ白な民族衣装に身を包み、
頭からは、手の込んだ刺繍が施されたベールを被っている…。
「これ、ガラベーヤって言うエジプトの衣装なの。素敵でしょ?」
素敵も何も……
正直、見た目おばQのコスプレだ……
想像してみて欲しい……。
田舎町で、砂漠の民の衣装(おばQ)に身を包み、
真っ赤なクラシックカーを操る
若作りな女の姿を……。
それはもう、ホラーでしかない……。
……エジプトの風に当てられて購入して来た物だろう……。
美里らしいと言えばそれまでだが……
何も日本で、しかも、今着なくてもいいと思う……。
絶句状態の葵に美里は笑顔でこう言った。
「葵ちゃんにも素敵なお土産を用意してるからね♡」
この分じゃ、その土産とやらも期待できそうにない……。
それから家に着くまでの30分
陽気にはしゃぐ美里を他所に
葵は一言も口を開こうとはしなかった。