恋するイフリート
「ただいまぁ~……」
葵は疲れ果てた声で、リビングのソファーにドッカリと寝そべった。
すると、
「おかえり~」
何処からか聞きなれない声がする。
驚いてソファーから飛び起きると、
対面のソファーに見知らぬ男が笑顔で腰掛け
葵に手を振っているではないかっ!?
「あ、どうも……」
は…、恥ずかしいっ!
いつからそこに居たのか…
軽く会釈を返しはしたが、
その人物は一体何者なのだろう…。
葵は怪訝な表情を浮かべる。
それもそのはず……
その人物はギリシャ彫刻のような堀の深い顔に
美里と同じガラベーヤ(おばQ)に身を包み、
頭には不思議な模様のスカーフを巻いていた。
はっきり言って、異様だ……。
揃いも揃っって一体何なんだっ!?
後から葵に続いて入って来た美里に
小声で肘をつつく。
「ちょっとっ!!お客様がいるならそう言ってよ!!」
「お客様??あぁ、お土産よ♡」
「ちょっと、一体誰なの??日本人じゃないみたいだけど……」
「アシュラフ・アハメッド・モハメッド………」
「はぁっ!?」
「じゃぁ、アシュラフ。」
「だから、そのアシュラフがどうしてここに居るの!?」
「葵ちゃんのお土産♡」
「…………」
「はぁぁぁぁっ~~!!????何考えてんのっ!!??
何処から連れてきたのっ!!??」
「エジプト♡」
「何で連れて来たのっ!?(怒)」
「優しくて、男前で……♡
若い時のパパみたいだったから……♡
葵ちゃんのお土産に丁度いいかなっと思って…♡」
………言葉も出て来ない……。
馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたが、
まさかここまでとは……。
「葵ちゃん。よろしくおねがいします」
片言の日本語で、笑顔で手を差し出すアシュラフ…。
それを振り払う勇気など、葵には持ち合わせていない。
「よろしく……。アシュラフ……」
葵はそう言うと、
差し出された、浅黒いアシュラフの手を
握り返した。