clover's mind
 まぁ特に忙しいのは昼前後の3、4時間くらいなのだけれども、それでもほぼ毎日この地獄の時間帯はやってきて、一日の大半のエネルギーを“かっさらって”いく。

 慣れるまでは本当に大変だった。

 なにせピークの時間を過ぎたからといってそれでバイトがあがりってわけじゃない。

 そこから交代時間まではまだ何時間かある。

 忙しく動き回ってる間はいいんだよ。

 問題は足を止めてもよくなり始める頃。

 それまではアドレナリンの大バーゲンセールで疲労なんてもんはこれっぽっちも感じやしなかったんだが、いや、感じる暇もなかったんだが、それがじわりじわりと足下から拡がっていくのさ。

 足の親指の付け根辺りにある一番体重がかかるところがミシミシと音を立てやがるような感覚に襲われたかと思いきや、次は膝に関取がぶらさがったみたいに重くなる。

 でもって腰から背骨にかけてがセメントでも流し込んだのかってくらいに硬くなって、あれだ、類人猿みたく中腰のくせに背筋だけはビシッ、と伸びてるんじゃないかという気分になるんだな。

 たぶん実際にはそんな体勢にゃなってないだろうけど。

 カウンターのそばに姿見の鏡が置いてあるわけじゃないしな。

 ただ、今日はいつもとは違うのよね……。

 いやいや、忙しいのは変わらず……や、むしろいつもより忙しいくらいだ。

 そういうことじゃなくって、だ。

 いつもならどんなに忙しかろうがなんだろうが黙々と、注文のやりとりだけで会話が終わるなんてことはありえないのが俺たちだった。

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