clover's mind
 それが今日はどうしたものか。

 かろうじて笑顔は絶やさないものの、なんともありきたりなランチタイム風景でしかない。

 確かに効率は“格段に”上がって客の回転率(入れ代わりのことね)も早いんだが……それじゃぁうちのウリがありゃしないし、それを楽しみにわざわざこのクソ混む時間帯にくる酔狂な客だっているってのに。

 時折がっくりと肩を落としてため息混じりに店を出て行く客なんかはまさにそうなのだろう。

 あぁ、ほら、くたびれたスーツをきたパサついた髪のいかにも人生に疲れてます、って風貌のサラリーマンがきらり、とガラス欠片のような涙をこぼしながら帰っていくじゃぁないか。

 確か常連さんだったよなぁ、あの人。

 いつもなら注文を読み上げるたびに俺とあの人とでウィンクで視線を交わして「ちゃはっ!」とかいいながら“グーサイン”で交遊を深めてるってのに……。

 申しわけありません。

 こいつは、最悪今後の売り上げに影響しかねない。

 が、しかし。

 下手に客の回転率が上がっちゃってるもんだから客足が落ち着くまで俺にはもはやどうすることもできなかった。

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