clover's mind
──俺は、何をした?
客の言葉ひとつひとつが俺の全身を切り刻んでいく。
痛くなるような耳鳴りは甲高いにもかかわらず脳天を砕くかのごとく強く、際限なく加速していく動悸は段々と全ての音を喰らいつくす。
一種の防衛本能だろうか、照準の狂った視点は目の前の映像をぼやけさせ、その惨状を脳みそから蹴り出そうとした。
しかしその事実はそんなことをしたところで変わるはずもない。
そう。
俺は……失敗をしたのだ。
あの美しい見た目が醍醐味で、それを淹れることはひとつの“珈琲の伝道師”としての証でもある、あのカフェ・オレを、だ。
他でもない、俺の人生観すら変えた珈琲の、しかももっとも神経を使うと誰よりもわかったいたはずのカフェ・オレを!
この俺が!!
「す、す、すみ──」
「もうしわけありませんお客様。すぐにお取替えを致しますのでしばらくお待ちいただけますか?」
そのとき──動揺の極みにいた俺の横からすっ、と出てきて客に深々と頭を下げたのはマスターだった。