clover's mind
 低頭するマスターに最初は客も、

「はぁ……別にこれでもいいですけど……」

 と、めんどうなことはごめんだといわんばかりの様子だったが、マスターがひとこと、

「いえ、お客様に最も美味しい珈琲を飲んでいただくのが店の信条ですので……どうか淹れなおさせていただけませんか?」

 なんて付け加えると、

「へぇ~カッコイイ! じゃぁ、おねがいします!」

 興味をひかれたのか嬉々とした様子になった。

「かしこまりました。ありがとうございます」

 手を胸に当ててうやうやしく一礼をしたマスターはグラスをトレーに載せるとカウンター内に俺の腕を掴んで戻り、そのままなにをいうでもなく俺とはくらべものにならないくらいに滑らかで、美しい、流れるような動作であっという間にカフェ・オレを完成させる。

 そして見た目とは裏腹な優雅で澱み(よどみ)のないトレーさばきで客の下に舞い戻った。

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