clover's mind
 我に返ってさっそく用件を伝える。

「あの、まゆみさんはご在宅ですか?」

「いいえ、まだ帰宅してないわ。ごめんなさいね」

「そう、ですか……」

 と、なるとやはりどこかに寄り道をしているのか。

 まぁ真っ直ぐ帰宅する、ってのはあくまでも普段聞いてたあいつの基本行動であって、寄り道する確率は低くてもゼロじゃぁもともと、ない。

「それは直接あのコに伝えなきゃいけないことなのかしら? よかったら伝えておくけれど……」

 頬に手を当てて小首を傾げるお母様。

 申し出はありがたいが、言付けるようなものでもないしな。

「ありがとうございます。でも、直接でないとダメなことなので」

 深々と頭を下げて丁重に断りの言葉を伝える。

 顔を上げた俺は、

「もどりながら探してみます。遅くにすみませんでした。失礼します」

 もう一度、今度は軽く頭を下げてもときた道を振り返ってその場を後にしようとした。

 と、

「あぁ、ちょっとまって!」

 愛車にまたがろうと前傾姿勢で片足を後ろに振り上げたところで呼び止められる。

「それは今日でないといけないこと?」

 体操選手にも“ひけ”を取らないほど美しく足を後ろに伸ばした姿勢の俺にお母様は尋ねてきた。

「そう、ですね……できれば今日中に伝えたい、です。急げばいいってものでもないかもしれませんけど」

 完璧な体勢のままで答える俺。

 いかん、さすがにこれはつらい。

 なんというか“おしりのふち”が痛くなってきた。

「あのコの居場所は、どうやって? 草太さん、あのコの携帯番号知っているわけではないのでしょう?」

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