clover's mind
 さて、困った。

「ない……」

 目当ての“鳥ささみ”はすでに売り切れていた。

 とうの昔に売り切れていたのなら素直に諦めがつくのだろうが、ちょいと見回すとそこココの奥様方のカゴの中にはことごとく“鳥ささみ”が。

「まいったな……」

 天井を仰いで頭をかく。

 そこに空はなかったがやはり服のそでからは珈琲の香りがした。

 人間目の前に目当てのものがあると、それをどうしても手に入れたくなってしまうものである。

 さりとてこの店にはもはや目当ての“鳥ささみ”は、ない。

 ついいましがた店員を捕まえて胸ぐら締め上げながら在庫がないかどうかを問いつめてみたものの、神様はそんな幸運を俺に与えてはくれなかった。

 神様ってのは融通がきかないらしい。

「しかたないな、他の店にいってみるか」

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