clover's mind
「あ~玉子粥くいてぇ……」

 一人暮らしで何が一番困るかってぇと寝込んだときだ。

 自分が動かなきゃ何も出てこないし片付きもしない。

 寝込んで初日。

 今はまだいいが日が経つに連れて部屋が荒れていくことだろう。

 幸い掃除はつい先日したばかりだったし“流し”は常に清潔に保つ性分。

 長期戦にも対応可能。

 問題は食事、だな。

 作り置きしておいた食材はあるものの弱った胃袋が受け付けそうなものは漬物くらいだ。

 脳内調理で玉子粥をくつくつと炊いて煮込んで(もちろん土鍋で)あとは“あさつき”をはらりはらりとちらすだけ……と、よだれを「うぇっへっへ」と垂らしていた俺の耳に、

「ごめんくださ~い」

 今時チャイムも知らない世間知らずなお嬢様だろうか、玄関の外からメゾソプラノが俺の鼻水をすする音をさえぎって聞こえてきた。

「お~い、草太~?」

 はいはい。

「いないの~?」

 いますがちょっと体調を崩しておりまして身体を起こすのにひと苦労なのですよ。

「入るわよ~?」

 玄関の鍵がかかってて家主が不在時に部屋に入ってきたらそりゃアンタ立派な空き巣です。

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