clover's mind
「そっかぁ~よかったぁ~」

 手を胸にあててほっ、と安堵するまゆみ。

 どうやら俺の内心は悟れなかったらしい。

 こういうときに鋭くないのは非常にありがたい。

 しかし問題は、

「ところで、その脇にみえるのはなんだ?」

「あ、これ?

 せっかくだから作り置きしておいてあげようかな、って。

 ほら、つらいのに起きて料理するのも大変でしょ?」

 そんな気の利いたことを考えてくれた彼女の脇には“土鍋いっぱい”の玉子粥(らしきもの)が。

「ほ、ほほぅ~」

 もちろん、それが一人用でないことはいうまでもない。

「悪いな、助かる、よ……ぐふぅ……」

 い、いかん、見るだけでお腹がいっぱいに。

 もはや冷や汗通り過ぎて脂汗が出てきやがった。

 俺ってなにが原因で寝込んでたんだっけ?

「大丈夫?」

「あ、あぁ……」

「気分がまだ悪ようならまたあとでもいいのよ?」

「いや、いま食べる、よ。こういうのはあったかい内に食べたほうが……な」

 たぶん時間を置いたら間違いなく二度と口につけないと思う。

 そんなもったいないことは俺にはできない。

 しかし、あれだ。

 愛情というスパイスが全身にいきわたっていなければ今頃卒倒していたことだろう。

 例え相手が入れてなくても自分で隠し持っていたならなんとかなるものだ。

 愛情って素晴らしい──と、心底思った。

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