clover's mind
「ふんふんふ~んふふ~ん」

 なんのメロディなのかはさっぱりわからなかったけれどやけに楽しそうな鼻歌と食器をかちゃかちゃといわせながら洗う音とが若干もうろうとし始めた意識をやさしく包み込む。

 キッチンを眺めればきっと花柄が可愛らしいフリルのついたエプロンを着た彼女が軽く瞳を細めて桜色のくちびるにやわらかな微笑みを浮かべて時折頬にかかる髪をかき上げようとするものの両手に食器洗剤がついているものだからどうしようもできずにぷむぅ、と口をとがらせたりなんだりしつつも一生懸命お皿を割らないように洗って拭いて置いてをしゃかしゃかきゅっきゅっかちゃりかちゃりとやっているのだろう~なぁ~。

 なんていう妄想を浮かべてしまうあたり、どうやら意識が混濁し始めているようだ。

 まぁしかし、女の子がキッチンに立って洗い物をしてくれている光景は男の夢のひとつだよな。

 うん。

(ここだけなら最高だったんだけどな)

 と、いうつぶやきをしたりなんてのはもっての外で、踏み絵にヒップアタック食らわせるキリスト信者並に罰当たりなことだったのだけれど思考力のめっきり低下した今の俺が気付くわけもなく。

 ほどなくして──

 粥(らしきもの)を食べて一応満腹になったからか、はたまた別の理由かはわからなかったが、とにかく俺はうつらうつらとし始めてやがて軽い眠りに落ちた。

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