clover's mind
 きつく服をにぎっていた手の力をゆるめ、軽く目を閉じて大きく深呼吸をする。

 覚悟を決めるとか、そんな大層なもんじゃない。

 ただ、俺はスタートラインにすら立とうとしていなかった。

 ゴールまでどのコースを走ろうか、そればかりを考えていただけのことなのだ。

 そうやって、いかにも自分は“前向きに分析している”と、そう思い込んでいただけ。

 つまりベンチから、安全地帯から出ようとしていなかったんだ。

 そりゃ、夢の中ですら告白することなんてできるはずも、ない。

 気付けば呼吸は整っていた。

 そしてもう一度深呼吸をする俺。

 するとさっきまでの激しい感情のたかぶりがすっ、と引いていった。

 ゆっくりと目を開けるとまだ視界はかすんだままだったけれど、なぜだか今ならこの夢の中のまゆみに伝えられる気がした。

 もし、ここで伝えることができたなら、現実の彼女にも伝えよう。

 今ここが、俺のスタートライン。

 そうさ、あの四つ葉を持って。

「好きだ……」

「……え?」

 俺を見下ろす彼女が不意をつかれたような声を上げる。

< 88 / 203 >

この作品をシェア

pagetop