clover's mind
 つまり、これは急いで飲むようなものではないと気付かされるのだ。

 ずっしりとした苦味のあとにふうわりとおとずれるほどの良い酸味。

 それははっきりと苦味との境があっておとずれるのではなく、立ち上る湯気のように揺らいでいて注意をすればするほど意表をつかれる、まるでいたずら好きな天使のよう。

 しかもその味わいは温度ごとの顔をみせ、それぞれに俺を楽しませてくれた。

 あぁ、こいつはあれに似ている。

 なんてことを思った。

 同じ場所でも朝や昼や夕方や夜でまるで違う顔をみせてくれる、あの空に。

 そう。

 珈琲とは“時間を飲む”ものなのだと、俺はこのとき初めて知らされたのだ。
 
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