チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
彼は軽く溜め息をついて名刺を取りだし、何やら書き込む。それをあたしに渡した。
両手で受けとる。
なんだか難しそうな会社の名前と役職が書いてある横に、『佐倉恭平』という名前。その横には、手書きの携帯番号。
「2日…いや、3日たってそれでもお礼したいと思ってたら、電話して。」
「え…?」
「3日たって、お礼なんていいや、儲けもんだったなって気持ちになるかもしれないだろ」
そこで初めて、彼は笑った。いや、笑ったと言ったら大袈裟かもしれない。ほんの少し、目が優しくなっただけ。
それだけだった。それだけで十分だった。
あたしは簡単に、彼にはまった。
3日があれ程長く感じたのは初めてだった。3日後、あたしは直ぐ様彼に連絡をした。電話口の向こうで少し驚いていた様だったが、すぐに彼は「どこか食べに行こうか」と言った。
それがあたし達の始まり。
彼の薬指の指輪は、カードを差し出した時に気付いていた。
気付いていて、はまってしまったんだ。
二番目でもいいと思ったのは、初めてだった。