チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

「亜弥ちゃん」

カツンとフォークを置く音が響く。あたしは顔を上げた。

「あたしに何か言いたいことがあるんじゃない?」

…心臓が止まる程驚くというのは、こういう事なのだろう。
あたしは思い切り目を見開いて、口の中にあったケーキをごくんと飲み込んだ。

「なぁんかここ最近、そわそわしてるっていうか、落ち着きがないっていうか。何かあった?」
「あ…いえ…」

どうしよう。何を言えばいい?
あなたは"サクラ"さんですか、なんて言えるはずがない。

でも真っ直ぐな宮川さんの前では、上手く嘘をつける自信がなかった。

意を決して、あたしもフォークを置く。

「…あの、」

心の中で、深呼吸をした。

「宮川さんの…宮川さんの、前の恋人の話を聞きたくて…」

これが精一杯だった。こんな真剣に切り出す様な話題じゃないし、軽いのりで話した方がよっぽど普通だ。
宮川さんも、さすがに驚いて目を丸くする。

「いや、その…別に、変な意味じゃないんです。ただ、大人の恋愛って、どんな感じなのかなぁとか…」

我ながら苦しい言い訳だ。絶対不審がられてる。っていうか、絶対怪しい。

< 116 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop