チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「亜弥ちゃん」
カツンとフォークを置く音が響く。あたしは顔を上げた。
「あたしに何か言いたいことがあるんじゃない?」
…心臓が止まる程驚くというのは、こういう事なのだろう。
あたしは思い切り目を見開いて、口の中にあったケーキをごくんと飲み込んだ。
「なぁんかここ最近、そわそわしてるっていうか、落ち着きがないっていうか。何かあった?」
「あ…いえ…」
どうしよう。何を言えばいい?
あなたは"サクラ"さんですか、なんて言えるはずがない。
でも真っ直ぐな宮川さんの前では、上手く嘘をつける自信がなかった。
意を決して、あたしもフォークを置く。
「…あの、」
心の中で、深呼吸をした。
「宮川さんの…宮川さんの、前の恋人の話を聞きたくて…」
これが精一杯だった。こんな真剣に切り出す様な話題じゃないし、軽いのりで話した方がよっぽど普通だ。
宮川さんも、さすがに驚いて目を丸くする。
「いや、その…別に、変な意味じゃないんです。ただ、大人の恋愛って、どんな感じなのかなぁとか…」
我ながら苦しい言い訳だ。絶対不審がられてる。っていうか、絶対怪しい。