チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「どんな人?」
「…あたしより大人で、落ち着いてて…、好きになっちゃ、いけない人です」

正直に言った。これ以上宮川さんに、隠し事はしたくなかったから。

宮川さんは勘がいいから気付いたかもしれない。黙って、コーヒーを飲んだ。

「…前の恋人ね、」

カチャンと陶器のぶつかる音と共に、宮川さんが話し始めた。

「高校生の時から好きだったの。かっこよくて、凄い優しくて。そんなんだから、彼の事好きな子も沢山いてね。あたしなんて絶対無理だって、諦めてた」

懐かしむ様に話を進める。

「でもね、思いきって…そう、人生最大の勇気を振り絞って、告白したの。そしたら彼、照れた様に笑って『ありがとう』って。あの笑顔は多分…一生、忘れない」

ポツリポツリと話す宮川さんを、あたしはただ黙って見つめていた。
再びコーヒーを飲んで、そして続ける。

「でもね…あたしが上京することになって、だんだんすれ違ってきて…言われたんだ。もう、好きじゃないから。だから、別れてって」

胸がぐっと締め付けられる。宮川さんの表情。マモルの声。頭の中でぐるぐる回る。

『相手の幸せを、一番にって』

< 118 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop