チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

言いたかった。

それは彼の本心じゃないですって。

彼は今でも"サクラ"さんを…

「…優しい嘘だった」

…本当に、あまりにも穏やかな声に、あたしは思わず目を見開いた。

静かに笑って、宮川さんは言う。

「彼は…優しい嘘を、つける人だった。あの時も…彼はあたしに、優しい嘘をついた。だって…彼はそんなに簡単に、人を傷付ける人じゃないから。自分を、傷付ける人だから。だからあたしは…その嘘に騙されてあげたの」

宮川さんの表情は穏やかで、それでいてとても優しかった。
それがあたしには切ない。

「そんな嘘をついた理由は今でもわからない。もしかしたら、遠距離恋愛になるからかもしれないし、それ以外かもしれない。でも…あたしの事を想ってついてくれた嘘だってことは、凄くよくわかるの」

そんな人だった。宮川さんは、そう言った。

「そう…思います」

あたしも小さく呟く。

「宮川さんの幸せを想って、そう言ったんだと…あたしも思います」

だったら。あたしが聞かなきゃいけないことは、ただひとつだ。

「宮川さんは…幸せですか?」

マモルが願った"サクラ"さんの幸せ。

"サクラ"さんは、それで幸せだった?

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