チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

少し考えて、それからゆっくり、宮川さんは言った。

「…わからない」

あたしはそんな彼女を見つめる。

「わからないわ。あの時はやっぱり辛かったし、今でももしかしたら、辛いのかもしれない。でも…」

宮川さんは視線を上げる。それは真っ直ぐで、綺麗だった。

「でも、彼と過ごした時は、間違いなく幸せだった。だからあたしは…彼と出会ったことも、恋をしたことも、別れたことも…全部、後悔はしてない」

宮川さんの口調は、恋をしてるか弱い女の子のものじゃなかった。

恋をして、傷付いて、涙して。それらを全て乗り越えた、強い人だと思った。

この人が、マモルの好きな人なんだ。

マモルの愛した、人なんだ。

「だから…亜弥ちゃんも、怖がっちゃダメ」

真剣な宮川さんの声。そして、優しい声。

「好きになって傷つく事を、怖がっちゃダメよ。間違ってもいいじゃない。傷ついたらその分強くなれるし、傷つけたらその分、優しくてなれるわ」

胸がじんと熱くなるのがわかった。なんだか凄く、泣きそうだ。

「どんな恋をしても、それは確実に亜弥ちゃんを大人にするから。人を好きになることって、そういうことじゃない?」

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