チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
夜道を歩きながら、酔いを冷ましていた。

ほんのり火照った頬。宮川さんには秘密にしていたけど、ワインを飲んだのは初めてだった。

なんとなく宮川さんは、春哉さんのことが好きなんだと思った。
いや、言い過ぎか。好きになるんじゃないか。そっちの方が正しい気がする。

人の気持ちは動く。それはどうしようもないし、どうにかしていいものでもない。

ただどうしても、切ない気持ちは拭えないわけで。

繰り返す。何度でも繰り返す。そうして少しずつ、『大人』になっていくのかもしれない。

『傷ついたらその分強くなれるし、傷つけたらその分、優しくなれるわ』

ねぇマモル。

マモルの優しさや強さは、宮川さんにもらったものなのかな。
それとも宮川さんのそれが、マモルのものだったの?

多分どっちも正しい。

二人でいたから、今の二人がいるんだもん。

そう思うと、なんだか少し泣きたくなった。

…ねぇマモル。
"サクラ"さんは、本当に強い人だね。
本当に、優しい人だね。
彼女の絵をマモルに見せたいって、あの日強く思ったんだ。

それが二度と叶わないなんて、あの日のあたしは思いもしなかったから。


ねぇマモル。

それもマモルの、優しい嘘だったの?

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