チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
はじめは気のせいだと思っていた。
1人で歩いていて誰かの気配を感じたり、みんなと騒いでる時に変な視線を感じたり、それくらいでストーカーと決めつけるわけにはいかない。
ただついこの間、夜道を1人で歩いている時に、確かに後ろについてくる人を確認したのだ。
よくドラマやマンガであるような、靴音が背後に響くあれ。あたしが止まるとそれも止まる。さすがに気味が悪くて、佐倉さんに電話をするふりをした。
「ホントに電話すればよかったのに」
「できるわけないでしょ。とっさに浮かぶ男の人が、佐倉さんだけだったの」
なるべく大きな声で、あたかも今から迎えに来てくれるかの様な会話をしてるふりをした。まるでデートの約束の様な。後ろの人に聞かせるためだったけど、情けない様な寂しい様な、そんな気持ちにかられた。
そんなあたしの心情なんかは知恵に言うはずもなく、知恵にはその事実だけを伝えた。
神妙な顔付きでポテトを食べる知恵。
「気味悪いね。なるべく1人にならない方がいいよ」
「やっぱそうかな?」
「あたしもなるべく一緒にいるし。夜遊ぶ時は、春樹に送らせるから」
ありがと、と言いながらも、あたしはそんなに事を重大に捉えていなかった。
その時は。