チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
誰にも言えなかった。言えるわけなかった。
いくら知恵でも、絶対幻滅する。
援助交際に、不倫なんて。
知恵には幻滅されたくなかった。
知恵だけには、絶対。
ふいに春樹の足が止まった。あたしも思わず止まる。
「春樹?どした…」
瞬間、春樹があたしの前に立った。そのままあたしを抱き寄せる。
「は…!?」
驚きすぎて、声がちゃんと出なかった。何!?
「黙って」
春樹が耳許で囁く。言われなくても黙ってる。っていうか、声なんて出ない。
しばらくそのままでいた。瞬きを忘れたまま春樹に抱かれるあたし。
いい加減突き放さなきゃ。そう思った瞬間、春樹がばっと駆け出した。
思わず体制を崩す。
「待てよっ!!」
背中に春樹の叫び声を聞いた。状況が飲み込めないあたしは、よろけたまま後ろを振り向く。
そこには、曲がり角に立った春樹しかいない。
「…は、るき?」
「くそっ、逃がした」
チッと舌打ちをしながら、あたしの方に戻ってくる。無意識に身構えた。
「…あぁ、悪ぃ。後ろに俺等のことつけてるやついたからさ。多分ストーカーだと思って、油断させるために」
あぁ、そっか。軽く言ったが、知恵に合わせる顔がないと軽く自己嫌悪に陥った。