チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「女だったよ」
「へ?」
「逃げた奴、女だった」
女。春樹の顔を見ながら、だんだんと頭がはっきりとしてくる。
「…嘘」
「まじで。線の細さとか髪型とか雰囲気とか。男なわけない」
春樹が断言するのだから本当にそうなのだろう。あたしは改めて背筋がぞっとするのがわかる。
「…意味わかんない。何?女のストーカーって…」
「気味悪さ倍増だな。下手に襲われることはないだろうけど、もし亜弥に恨み持ってる奴とかだと、下手に襲われるより危険」
そう言うと、春樹は歩き出した。早いとこ帰ろう。あと、あんまり一人になるなよな。
春樹の後ろを歩きながら、ちらとさっきの角を振り返った。
電柱が気味悪く光ってる。その後ろに人影が見えた気がして、でも明らかに幻影で、そんな自分にぞっとした。
…ホントにあんま、一人にならない方がいいかも。
好かれてるストーカーよりもこういうストーカーの方がきっとたちが悪い。なんとなく直感でそう思い、早足で春樹を追いかけた。
そんな状況なのに、頭のどこかで、目の前の春樹が佐倉さんだったらなと思ってる自分に気付き、自傷的に笑った。