チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

……………

今日はいつもと同じだった。いつもと同じ様にホテルで待ち合わせて、いつもと同じ様に佐倉さんに抱かれる。

ただ今日は佐倉さんは早く帰らなきゃいけないみたいで、あたしの好きな行為の後の煙草の時間はなかった。

シャワーの音を聞きながら、佐倉さんにもらったブレスレットを見つめる。

何度も佐倉さんはあたしの手首にキスをする。ブレスレットの下には、小さな赤い跡も残っていた。

消えなければいいのに。佐倉さんの証が、消えなければ。

やがてシャワーを浴びた佐倉さんは、いつもの様にさっとスーツに着替え、現実に戻っていった。

あたしだけ取り残される。
虚構の世界の中に、ポツンと1人だけ。

「また連絡するから」

小さく呟いた佐倉さんに、あたしはシーツの間から顔を出してコクリと頷いた。

そのまま出ていく彼の背を見つめながら、やっぱり現実に戻った彼は、唇以外のキスすらしてくれないのだと実感する。

さっきまであんなに熱かったのに、その反動が激しすぎる。

冷えた心と体を暖める様に、小さく縮こまって両腕で体を抱き締めた。

眠ってしまおうかな。今日は、なんだか眠りたい。

そう、思った瞬間だった。

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