チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
コン、コン
静寂と孤独に包まれた部屋に、二回小さなノック音が響いた。
重い瞼を上げる。
…気のせい?
夢と現実を行き来している思考回路なので、うまく頭が回らない。
もう一度目を閉じようと思った瞬間、再びノック音が響いた。
コンコン、
さっきより速い。
重い体をベッドから引きずり下ろし、ドアに向かっていく。
…佐倉さんかな。
ドアノブに手を伸ばしたが、一瞬躊躇って覗き穴で確認することにした。
小さな覗き穴から廊下を見る。
「…つっ!」
思わず後退りした。その拍子に入り口近くにあった机に腰をぶつけ、ガタンと音をたてる。
…嘘、なんで?
手のひらで口許を覆う様にしながら、心臓が凄いスピードで鳴り始めるのがわかった。
ドア一枚を隔てて向こう側にいるのは、帽子とサングラスをつけた女性だった。
『女だったよ』
春樹の言葉が何度も頭を駆け巡る。
目を見開いて固まったままのあたしの耳に、再びあのノック音が届いた。
コンコンコン、
三回。さっきより増えてる。
背筋がぞっとした。冷や汗が背中を伝う。
やだ。怖い。怖い。