チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

コン、コン

静寂と孤独に包まれた部屋に、二回小さなノック音が響いた。

重い瞼を上げる。

…気のせい?

夢と現実を行き来している思考回路なので、うまく頭が回らない。

もう一度目を閉じようと思った瞬間、再びノック音が響いた。

コンコン、

さっきより速い。

重い体をベッドから引きずり下ろし、ドアに向かっていく。

…佐倉さんかな。

ドアノブに手を伸ばしたが、一瞬躊躇って覗き穴で確認することにした。

小さな覗き穴から廊下を見る。

「…つっ!」

思わず後退りした。その拍子に入り口近くにあった机に腰をぶつけ、ガタンと音をたてる。

…嘘、なんで?

手のひらで口許を覆う様にしながら、心臓が凄いスピードで鳴り始めるのがわかった。


ドア一枚を隔てて向こう側にいるのは、帽子とサングラスをつけた女性だった。

『女だったよ』

春樹の言葉が何度も頭を駆け巡る。

目を見開いて固まったままのあたしの耳に、再びあのノック音が届いた。

コンコンコン、

三回。さっきより増えてる。

背筋がぞっとした。冷や汗が背中を伝う。

やだ。怖い。怖い。

< 130 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop