チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

そのまま力の入らない足でベッドに駆け込む。

入るというより倒れ込むという表現の方が正しい。シーツを握りしめ、歪む視界の中1人震えた。

追い詰めるって何?
あたし、何かした?
何でこの場所までわかるの?

やだ。怖い。ホントに怖い。

携帯を取り出す。震える指でアドレス帳を表示した。

…知恵?
ううん、心配かけちゃダメ。春樹も同じ。

それにホテルになんて呼び出せない。

…佐倉さん?

佐倉さんの携帯番号を表示する。かけることなんて滅多にないのに、もう丸暗記してしまっているそれ。

…ダメだ。かけれない。こんな時ですら、あたしは頼ることもできないんだ。

誰も助けてくれない。誰にも頼れない。

あたしが泣ける場所なんか、どこにもない。

涙を堪えながら、ひとつの番号を表示した。

…マモル。

その名前を見ただけで、あたしは苦しい程に泣きたくなる。

甘えてしまう。いつも、どんな時でも。

伝う涙を拭うこともせずに、あたしは通話ボタンを押した。

マモル。助けて。

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