チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

呼び出し音が右耳に響く。

三回目のコールが鳴るか鳴らないかの間で、マモルは電話に出た。

『チェリ?』

優しい。優しいマモルの声。

涙が止まらなかった。どうしようもなく安心してしまう。

マモルの声を聞いて初めて、息ができた。それまであたしは、きちんと呼吸ができていなかったことに気付く。

「マ…モル、」

すぐにマモルは、あたしが泣いていることに気付いた。

一瞬空気が固まったが、すぐにマモルの優しい声がそれを溶かす。

『どうした?』
「こ…、怖い夢、見た」

とっさについた嘘。佐倉さんといたホテルにストーカーが来ただなんて、言えるわけがない。

多分マモルはすぐに嘘だと気付いただろう。それでも敢えて聞くこともせず、相変わらずあたしをなだめる様な声で言った。

『怖い夢?』
「ん…」

そう、と、小さく呟くマモル。

『…大丈夫、それは夢だよ。今が現実。俺と話してる今が、現実だよ』

まるで子供をあやすかの様な口調。それがあたしを落ち着かせる。

「…ん…、そうだ、よね」
『そうだよ。大丈夫、大丈夫』

マモルの『大丈夫』は、呪文だ。
あたしの心にそっと呼び掛ける。
そっと、寄り添ってくれる。
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