チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
…「メール?誰?」
「ん?佐倉さん」
「佐倉さん!?」
驚いた知恵は食べ掛けのポッキーを机の上に落とした。あたしはそれを見て思わず肩をすくめる。知恵は驚くと手に持った物をよく落とす。
「珍しくない?佐倉さんからメールなんて」
「珍しいもなにも、多分初めてだよ。普段は電話だから」
知恵が落としたポッキーを取り、ぱくりと食べる。溶けかけたチョコレートが口のなかに広がった。
「何だって?」
心なしかニヤついた知恵が聞いてきた。いぶかしげな表情を見せながらも、答える。
「…今日の夜、会おうって」
「まじ?やったじゃん」
「うん…。まぁ、嬉しいけど…」
けど、何?そう言われると何とも言えないけど。
メールを開いた。シンプルな文面。佐倉さんらしいと言えば佐倉さんらしい。
でもどこか拭えない違和感があるわけで。
あたしはその違和感に気付けないまま、それでも佐倉さんに会えるのなら構わないと感じていた。
餌をぶらつかされた犬の様に、佐倉さんに呼ばれればどこにでも行く。
それが裏目に出た、と、言うべきなのだろうか。こういう場合は。