チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
足音をたてない様に廊下を歩く。

その努力も虚しく、スリッパの主はパタパタと急ぎ足で廊下に出てきた。

予想はしてた。

「…うそ、帰ってたの?」

玄関前での鉢合わせ。

デニム地のショートパンツに白いベアトップとベージュのロングシャツ。ゴールドの太めベルトが彼女の細い腰を強調させている。

前髪を思い切り上げたその髪型は、小顔の彼女にしかできないだろう。

バランスのいい眉がくっと中央に寄る。綺麗な人こそ、こういう表情がよく似合う。

マスカラを大量に絡ませた目許で、軽蔑する様な視線をあたしに送った。

「…お姉ちゃん」

条件反射の様に呟いたあたしの一言で、彼女は益々顔を歪ませた。溜め息をつき、「最悪」と小さくもらす。

「何しに帰ってたの?」
「…着替えと、シャワー」
「じゃあすぐ出てくの?」

一応疑問形をとっていたが、彼女の口調は「出ていけ」と言っているそれと何ら変わらなかった。
言われなくても解ってます。

小さく頷いたあたしに、彼女は安心した様に笑って言った。

「そ。まぁどうでもいいけど。今度はあたしがいない時に帰って来てよ」

白いサンダルに綺麗な足をはめながら捨て台詞。

「警察沙汰だけは勘弁ね。迷惑だから」
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