チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
知恵が黙った。
でも空気でわかる。
知恵が傷ついたことが。
「…亜弥、お前、何言ってんの?」
微かに震える声で、春樹が言った。
「お前…今何言ったかわかってんの?」
「自分が言ったことくらいわかる」
「お前…何で知恵にそんなこと言えるんだよ。何で…」
「あのさぁ、」
ヤバい、感情が抑えられない。
「そういうの、やめてくれない?」
「え?」
「そうやってあたしの前で、知恵知恵って」
声が上がる。
眉間にしわが寄る。
「そうやって、幸せな二人見せつけるの、やめてよ。春樹達見てると…あたしは幸せじゃないって、言われてるみたいで嫌なの。いつもいつも、嫌だったの!」
どうしよう、止まんない。
ホントはいつもそんなこと思ってたわけじゃないのに。
なのに今、あたしは最低な事ばかり言ってしまう。
傷つける言葉ばかり、簡単に頭に浮かぶ。
「もう嫌なの!もうあたしに構わないでよっ!」
思わずその場を駆け出した。
春樹があたしを呼ぶ声が背中を追いかける。
それでもあたしは振り返らなかった。
知恵の声は、聞こえなかった。