チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

…街は、湿ってた。

今にも雨が降りだしそう。それを察してか、人々は足早に帰路についていた。

そんな中あたしは、焦点の定まらない視線でふらつきながら歩く。

思わず肩にぶつかったサラリーマンが、怪訝な視線であたしを見た。
それも一瞬で、すぐにまた流れに戻っていく。

多分彼は、もうあたしとぶつかったことなんて忘れてるだろう。

その程度の存在なんだ、あたしなんて。

なのにどうして、あんな事が言えたんだろう。


…溜め息さえ、出なかった。


知恵と春樹を見ていると羨ましくて、そしてたまに、自分が情けなくなった。

どうしてあたしは、二人みたいな恋愛ができないんだろう。

どうして知恵ばっかり、いつも幸せなの。

そう思う度にひとつ自分が嫌いになった。
そんなのひがみだ。知恵のせいじゃないのに。

それでもあたしが知恵と一緒にいたのは、他でもない、知恵のことが好きだからだ。

羨ましかった。でもそれ以上に、知恵の幸せが嬉しかった。
ホントだよ?知恵の笑顔は、いつもあたしも幸せにしてくれてた。

ホントなのに。

なのに、何で。

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