チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

ポツリと頬に、雫石を感じた。

あたしの涙かと思ったが、それは空の涙だった。

「やだ、降りだした~っ」

近くを歩いていた女の子達が、バタバタと走って屋根を探しに向かっていた。

ふいに思い出す。中学の頃、夕立にみまわれたあたしと知恵。知恵しかブレザーを着ていなかったから、二人でカップルみたいにブレザーを傘がわりにして走った。
それでも駅に着いた時にはびしょ濡れで、二人思わず吹き出した。

忘れてたと思ってたのに、こんな時に思い出す。
こんな時だから、思い出すのか。

にわかに街がざわめく。みんな雨を避けるために空から逃げる。

そんな流れに逆らったまま、あたしはただ暗い雲の下に立ち尽くしていた。

いぶかしげな視線を嫌という程浴びる。なにこの子、大丈夫?


大丈夫じゃない。
もう、ぼろぼろだ。

あたしを支えてた愛も、大切な人も、もう何もかも失った。

次第に雨足は強まり、あたしを梅雨の始まりが包んでいく。


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