チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


…三日目には、もうホテルを後にした。何日も泊まれる程のお金もないし。

あたしを『サクラ』と呼ぶ誰かを呼べばホテル代は浮くけど、今はそんな気力も体力もない。

幸い外は晴れていたので、そこまで寒くはなかった。

季節外れのカーディガンを羽織ったあたしは、その足で公園へと向かった。



…公園には親子連れが沢山いて、もしかしたら今日は日曜日なのかもしれないと思った。曜日感覚も日にち感覚もゼロだ。

キャッキャと遊ぶ小さな子ども達と、その姿を見守りつつもお喋りに花を咲かせる母親達。

どこにでもある光景。あたしはただ、ベンチに座ってぼんやりとその光景を見つめていた。

小さな男の子が、女の子が遊んでいたスコップを取り上げる。女の子は泣き出すが、男の子は知ったことかとそのスコップで遊び始めた。でも女の子は他の子がやっていたお団子作りに目が行き、次第にスコップのことは忘れていく。楽しそうにお団子を作る皆を見て、やがて男の子もスコップを捨てて、その輪に入っていった。

薄汚れたスコップが、真昼の太陽を反射させる。

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