チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

人の気持ちなんて、こんなに簡単に移り行くものなんだ。

人から取り上げてでも欲しかったものなのに、あんなに簡単に捨てられる。

それはとても残酷なことかもしれないけれど、それでもあのスコップは、捨てなければいけない。だってあれは、女の子のものなんだから。

あたしは未だに、スコップを捨てられない。

子どもの様に駄々をこねて、絶対に離そうとしない。

変わって欲しくない気持ちは簡単に変わっていくのに、変わらなきゃいけない気持ちは、なかなか変わってくれないんだ。


ふいに影ができた。顔を上げると、小さな女の子。

あたしを見下ろす様にじっと見つめてたが、「あげる」と小さな手を差し出した。

そこには小さな透明な袋。懐かしいウサギの絵が描いてあって、中には昔よく食べたボーロがつまっていた。

「いいの?」

あたしが聞くと、女の子はコクンと頷く。

「ありがとう」

やがて女の子の母親らしき人が駆けてきて、あたしを怪訝な目で見ながら女の子を連れていった。

無理もない。ボロボロのあたしは、家出少女というよりまるでホームレスだ。

手に持ったボーロを見つめる。

懐かしさと憧憬が、胸に染みた。

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