チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


なんとなく、いつも行くCDショップに足を向けた。

特に意味はなかったけど、時間をつぶすならここが一番いいと思ったから。

店内ではヒットチャートがひっきりなしに流れていて、何人かのお客さんが試聴しながらジャケットを見比べている。

あたしもごく自然にその流れに従って、適当に空いている試聴コーナーに向かった。

オムニバスCD。『今夜、泣きたいあなたに』。

思わず苦笑した。あたしにぴったりのCDなんじゃない?

適当に合わせて曲を聞く。成る程"泣きたいあなたに"とあるだけあって、選曲は巷で切ないとされているものばかりだ。

数年前にヒットした映画の主題歌から、ごく最近売れたバンドの失恋の歌。若者向けに作ってある感は否めないが、それでも泣きたい夜には、確かにいいかもしれないと思った。


ただ、あたしは泣けないだけで。


人より少しだけ涙もろいあたしは、切ない映画や曲があればすぐに泣けた。知恵にもよく、「亜弥はすぐに感情移入するから」と笑われた。

でも今は、泣けなかった。

泣きたいのかもしれない。でも、あたしには泣ける場所がない。

泣いていい場所が、ない。

< 169 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop