チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


…着いたのは、夕方の6時を過ぎた頃だった。

この駅で降りる乗客はあまりいなく、東京みたいにごみごみしていない。

すうっと息を吸い込むと、体の中にクリアな空気が入り込んでくる。

循環する。入れ替わる、あたしの中身が。


…ここが、マモルの育った場所だ。

この空気は、あたしを安心させる。あたしを落ち着かせる。

マモルと同じ、優しさを持っている。

僅かに不安が消え去って、あたしはエスカレーターに向かって足を進めた。



…駅の窓から見える景色は、東京とは全然違った。

エスカレーターから降りた所で立ち止まり、窓枠に触れる。

ビルはあまりなくて、代わりに緑の山が覗く。車と自転車と、犬を連れたお祖父さんが歩いていた。

ふいに頬が緩む。

そこであたしは、改めて東京以外の場所にあまり行った事がないことに気付いた。


狭かったんだな、あたしの世界は。


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