チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
どれくらいの時間そこにいたかわからなかったが、ずっと見ていたいと思える程和む景色だった。
軽く深呼吸をして、窓枠から手を離す。
改札に向かって歩く足が、少しだけ震えた。
今あたし、マモルに向かって歩いてるんだ。
ずっと電話越しにしか知らなかった、マモルに向かって。
切符を通して、改札を潜る。
ガチャンという音が、またひとつあたしとマモルの間の壁を取り去った気がした。
視線の先はピンクのパンプス。
心臓が早くて、顔が上げられなかった。
軽くチュニックの先を握りしめ、思いきって顔を上げる。
駅では、多いとはいえないけど何人か人が行き交っていた。
ゆっくりと頭を動かし、一通り見る。
その瞬間、カゴバッグの中で携帯のバイブが鳴った。
同時にあたしの心臓も跳ねる。
取り出して見たディスプレイには、『着信:マモル』の文字。
大きく深呼吸して、あたしは通話ボタンを押した。
「もしもし?」