チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
『…チェリ?』
マモルの声の奥で聞こえるざわめきは、今あたしが聞いているざわめきと同じで。
すぐ近くにいるんだ。
遠くて近かったマモルが、本当に近くに。
『着いた?』
「…うん。今、改札の前だよ」
『…そう』
少しだけ、マモルの声が小さくなった気がした。
いつものマモルと少し違う。
優しいのは変わらないけど、どこか、躊躇っている様な。
どこか、悲しそうな響きで。
『…チェリ』
ドクンと心臓が鳴った。軽く息を吐いて、「ん?」とわざと明るい声で聞く。
『ごめん…俺、チェリを多分、見つけられない』
「…え?」
『だから…悪いけど、チェリが見つけてくれないかな』
マモルの言う意味が、あまりわからなかった。
それでも「見つけてよ」なんて思うはずもなく、コクンと頷いて「わかった」と答えた。
「どの辺りにいる?」
『駅の…入り口、かな。柱があって、そこに立ってる』
「何か目印とかない?服とか…」
『大丈夫だよ。お互い電話で話してるんだから、きっとすぐにわかる』
不思議に思った。
じゃあ何で、マモルはあたしを見つけてくれないんだろう。
そんな疑問を疑問と捉える余裕もないまま、あたしは駅の入り口に向かった。