チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

「…ねぇマモル」
『ん?』
「あたしにあんま期待しないでね」
『どういう意味?』
「だって…そんな可愛くないし、今おでこにちっちゃいニキビできてるし」
『チェリはチェリだよ』

笑って、マモルは言った。それが少し、あたしを落ち着かせる。

『…チェリ』
「ん?」

駅の入り口まで出てきた。

足を止め、ゆっくりと辺りを見渡す。

柱…電話をしてる男の人…

『俺、チェリに謝らなきゃいけない』
「え?何…」

…ふいに、視線が止まった。

入り口の柱。
もたれかかっている男の人。

手のひらから、するりと携帯が落ちた。

カシャンと、音が駅に響く。

その音で、彼はゆっくりとあたしに顔を向けた。

「…チェリ?」

電話越しじゃない。彼の声が、彼の口から。

瞬きを忘れたから、だから目が乾いたわけじゃない。

胸の奥から、苦しい程の熱いものが込み上げてきた。

< 182 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop