チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「…ねぇマモル」
『ん?』
「あたしにあんま期待しないでね」
『どういう意味?』
「だって…そんな可愛くないし、今おでこにちっちゃいニキビできてるし」
『チェリはチェリだよ』
笑って、マモルは言った。それが少し、あたしを落ち着かせる。
『…チェリ』
「ん?」
駅の入り口まで出てきた。
足を止め、ゆっくりと辺りを見渡す。
柱…電話をしてる男の人…
『俺、チェリに謝らなきゃいけない』
「え?何…」
…ふいに、視線が止まった。
入り口の柱。
もたれかかっている男の人。
手のひらから、するりと携帯が落ちた。
カシャンと、音が駅に響く。
その音で、彼はゆっくりとあたしに顔を向けた。
「…チェリ?」
電話越しじゃない。彼の声が、彼の口から。
瞬きを忘れたから、だから目が乾いたわけじゃない。
胸の奥から、苦しい程の熱いものが込み上げてきた。