チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
あたしは今まで、本当にマモルの一部にしか知らなかったんだ。
マモルの笑顔も、マモルの友達も、マモルの現実も。
夕日がマモルの横顔に写る。
目を細めてはいても、光を感じているわけではないのだろう。
外の景色から、あたしはマモルに視線を移した。
…綺麗。
マモルは本当に、綺麗な顔をしていた。
佐倉さんとはまた少し違う。優しそうな目許に日本人離れした筋の通った鼻。
色素の薄い細い髪の毛は、色は違うけど少しだけ佐倉さんに似ている気がした。
どこかいつも微笑んでいる様な口許が、マモルの背負っている運命とはあまりにもかけ離れている。
どこから来るのだろう。
マモルの優しさや、この穏やかな空気は。
「で。行き先は河川敷でいいの?」
「ああ、うん。今日だったよね?」
「河川敷?」
二人の会話に、自然にあたしは割り込んだ。
「うん。今日ね、ちょっとしたお祭りなんだ」
「お祭り?」
「お祭りっていうか…別に華やかなものじゃないけどね。ホタル祭り」
「ホタル?」
マモルの言葉にいちいち反応するあたし。
そんなあたしの方を少し見て、微笑んだ。
トクンと、心臓が動く。