チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「ここは東京に比べたら全然田舎で何もないけど、水や自然は綺麗だからね。まだホタルが見れるんだよ。特に今みたいな梅雨の時期とか」
井藤さんがミラー越しにあたしを見ながら教えてくれた。あたしはミラーを見て軽く頭を動かす。
「ホタル祭り行くなんて久しぶりだろ。ほら、あの高校ん時以来じゃね?」
「あぁ…三人で行ったね」
「俺と護流と宮川で行ったんだよね。でも護流バカだから、ホタル掴もうとして川に落ちて」
顔を崩して井藤さんが笑った。「忘れろよ」とマモルも苦笑。あ、よく電話越しに聞いてた声だ。
二人の会話を聞きながらあたしも微笑む。
「チェリちゃん、ホタル見たことは?」
「や…多分、ないと思います」
「そっか。じゃあ今日が初ホタルと対面なわけね」
車が進み、景色が変わった。
夕日を映す川が見える。
キラキラキラキラ。
「…綺麗だよ、きっと」
見えない目を窓に向けて、マモルが優しく呟いた。
あたしはその声に胸が潰されそうになる。
マモルはもう見えないのに。
この燃える様な夕焼けも、
キラキラ輝く水面も、
いつか"サクラ"さんと見た、あのホタル達も。