チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

……………

「ありがとう、啓介」

車を降りてマモルが言った。ホタル祭りの会場は河川敷で、屋台もほとんどないけど、それでも来ている人は闇を待つように岸に腰かけている。

「チェリちゃん、おいで」

車の反対側から井藤さんが呼んだから、あたしは小走りで二人の方へ向かった。

井藤さんの側にマモルが立っていて、その手は井藤さんの腕にかかっている。
井藤さんの腕は丁寧にお辞儀をする時みたいに曲がっていて、右手であたしをちょいちょいっと呼んだ。

「こうして、護流の杖がわりになってやって」

少し驚いたが、あたしは「はい」と返事をして二人の横に並んだ。

井藤さんと同じように手を曲げて、緊張しながら待つ。

井藤さんがマモルの腕を掴んで、そっとあたしの腕に移動させた。

マモルの温かい手のひらがあたしの腕にかかる。

一瞬、心臓が高鳴った。

「ごめんね、チェリ」

マモルが申し訳なさそうに謝ってくる。あたしは全然嫌じゃないけど、表情が見えないマモルは多分不安なのだ。

「全然、全然大丈夫だよ!」

なるべく明るい声で言った。
それでマモルに笑顔が戻る。

伝えなきゃ。
マモルにあたしの気持ちを、ちゃんと言葉で。
< 190 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop