チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
……………
「ありがとう、啓介」
車を降りてマモルが言った。ホタル祭りの会場は河川敷で、屋台もほとんどないけど、それでも来ている人は闇を待つように岸に腰かけている。
「チェリちゃん、おいで」
車の反対側から井藤さんが呼んだから、あたしは小走りで二人の方へ向かった。
井藤さんの側にマモルが立っていて、その手は井藤さんの腕にかかっている。
井藤さんの腕は丁寧にお辞儀をする時みたいに曲がっていて、右手であたしをちょいちょいっと呼んだ。
「こうして、護流の杖がわりになってやって」
少し驚いたが、あたしは「はい」と返事をして二人の横に並んだ。
井藤さんと同じように手を曲げて、緊張しながら待つ。
井藤さんがマモルの腕を掴んで、そっとあたしの腕に移動させた。
マモルの温かい手のひらがあたしの腕にかかる。
一瞬、心臓が高鳴った。
「ごめんね、チェリ」
マモルが申し訳なさそうに謝ってくる。あたしは全然嫌じゃないけど、表情が見えないマモルは多分不安なのだ。
「全然、全然大丈夫だよ!」
なるべく明るい声で言った。
それでマモルに笑顔が戻る。
伝えなきゃ。
マモルにあたしの気持ちを、ちゃんと言葉で。