チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
今でも思い出すと、少しだけ切なくなる。

それでも昔みたいに、もう涙は出なかった。

笑って思い出すことができる。多分それは、一番幸せなことだと思う。


満開の桜を前に、そっと目を閉じた。

暗闇の中、できる限り思い描く。


今見た、鮮やかな桃色。
もしあなたが見るのなら、どんな風に見えるのだろう。



…ねぇマモル。満開だよ。


もしあたしがそう言ったら、あなたはきっと目を閉じる。

そして優しい声で、きっとこう言う。


『ほんとだ、満開だね』



そっと目をあけた。

目の前に広がる桃色。

あたしは少しだけ目を細めて、窓を開けた。

風が花びらを運んでくれる。
短くなったあたしの髪も、一緒にサラッと揺れる。

宙を舞う沢山の花びらが、あの日見た小さな光達とリンクした。



…ふいに携帯が鳴る。

ディスプレイを見なくても、誰からの電話かはわかっていた。


窓の外を見ながら、笑顔でゴイステの着メロを止める。



『チェリ?』



右耳に届いたのは、やっぱり優しいあなたの声で。









愛しい、あなたの声で。

















~fin~


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